漆の世界にとって大事な分野を 確立しようされた方だと思います。

(社)日本漆工協会 専務理事 丸山高志

 

漆はさまざまな所で使われています。たとえば昔は、洋画家がキャンバスに漆を塗り込んでから描くと丈夫になってキャンバスが割れなくなるとか、日本画家も描いた鳥の目に漆を使うなど、部分的ですが使用しているようです。彫刻の世界でも漆は使われています。乾漆仏像といって、麻布に漆とのりを混ぜたものを何枚も貼り付けて土台にする方法です。漆は石器時代から使用され、アジアにしかない伝統のあるものです。

 

漆は塗料としてたいへん優秀ですが、工業が発達してくると漆に勝る塗料がたくさん出てきます。それでも漆に人気があるのはその色彩です。種類は絵具の方がもちろんたくさんありますが、美しさが違います。彩(いろ)漆(うるし)は塗った後に顔料が下に沈み、時間が経つにつれ表面の漆が透明になってきます。その奥深い美しさに魅かれるのです。また、しっとりとして柔らかさのある手触りがいい。何千年も漆文化が育まれてきた要因の一つだと思います。

 

松岡さんの彩漆画を見る限り、色を出すために相当研究されたのがわかります。戦前には「日本漆絵協会」、戦後には「日本漆画会」を創立され、中心メンバーとして活躍されています。私はまだ学生の頃に、当時三越で定期的に行われていた「日本漆画会」の展覧会を見ました。まだ生意気盛りの頃ですから、“なぜ油絵でなくて漆絵なんだ”と思った記憶があり、当時としては相当新しいことをされていたと思います。トータルな時代背景を見なければいけませんが、美術と工芸の境をなくす試みでもあったのではないでしょうか。メンバーの方たちもそれぞれの分野で活躍されている方たちですから、みなさん大きな夢があったと思います。漆の分野にとって大事な分野であったのかもしれませんね。松岡さんの後にどんどん続いていたら、漆の世界も少しは変わっていたのではないでしょうか。(談)