“僕の絵は200年~300年もつ。乾いた布で拭いてくれればいいんだよ”

�ギャルリー・コパンダール 乾 順子

 

松岡先生のように絵画としての漆絵をお書きになる方は、他にいらっしゃらないと思います。たいへん貴重であり、珍しいと思います。漆絵というのは描くのにとても長い時間と労力が必要です。先生のように描きたい絵のために一心に時間とお金を費やす方は、今の時代では少なくなっているように思います。

 

私はたまたま家がご近所だったことから、幼稚園生のころから先生には絵を教えていただき、奥様のアヤさんには数学を教えていただきました。先生のアトリエは子供の私にとって大好きな場所でした。私自身、現在は画廊をしていてたくさんのアトリエを拝見してきましたが、松岡先生のアトリエが今でも一番好きです。北向きのアトリエは一つ一つ先生が手をかけて設計されていたので、とても心地いい空間だったのだと思います。アトリエの中二階のところに3畳ほどの小部屋があり、「僕の最高の場所」とおっしゃっていました。そこにはお布団と本とスタンドしか置かれていませんが、遅くまで絵を描いた後に、ゴロンと横になる場所だったのでしょう。近所の子供たちとその小部屋に上がりこんだ記憶があります。

 

松岡先生は優しくて温和な、静かな話し方をする“おじいちゃま”という印象です。しかし、内に秘めたる情熱はすごい。絵を見ても力強さは伝わってきます。先生は非常に馬がお好きで、作品の「飾馬」を大切にされていました。自分の作品を長く残したいという思いで漆絵をはじめられましたから、よく「僕の絵は200年も300年ももつ。乾いた布で拭いてくれればいいんだよ」とおっしゃっていました。まさに、漆絵ならではの特長です。絵がこうした形で多くの人に見ていただけるなら、先生もさぞお喜びになると思います。