松岡が「彩漆画」に果敢に挑戦していた大正から昭和に比べ、時代は大きく変わり彩漆の顔料もいいものがたくさんでています。「漆絵」を一つのジャンルにしたいという願いも、中国やベトナムなどさまざまなところで取り組まれているようです。
『漆 うるわしのアジア』(大西長利著・NECクリエイティブ刊)の中には、中国では漆画が大変盛んになっていていると書かれています。日本では「漆絵」といいますが、中国は「漆画(絵画表現)」といいます。厦門(あもい)にある福建工芸美術学校には漆芸科(漆画科)があり、この学校で制作された漆画の大壁画が北京の人民大会堂に掛けられているそうです。漆の技術でいろいろな素材の質感や色彩を出し、絵画的に表現をする。単に漆の技術で絵を描くというよりも、絵画的表現をより効果的に求めるために漆芸の技法を活用しています。
大正・昭和時代(1912〜1988年)に松岡が「うるしアートワーク」に挑戦して以来、時代は変わり、彩光のための高品質な着色剤が手に入りました。中国やベトナムなど、さまざまな地域で漆絵を芸術分野として確立するための芸術活動が行われています。 「漆–漆のアジア(漆–楽しいアジア)」(大西長敏著、NECクリエイティブ発行)という本の中で、中国では漆の絵がとても人気になっていると書かれています。日本では「漆絵」と呼ばれていますが、中国では「漆絵」と呼ばれています。厦門の福建工芸美術学校には漆芸部門(適切には漆部門と呼ばれています)があり、北京の人民大会堂には学校が作った大きな壁画の漆工芸品が展示されていると伝えられています。漆の絵は、漆の技法を使って素材の質感や色を引き出すことで、よりファインアート形式で表現されています。漆の技法だけで絵を描くのではなく、芸術表現の探求の一環として漆の技法を採用しています。
ベトナムも漆木の生息地であり、さまざまな漆器が生産されています。ハノイ美術大学には驚くべくことに油絵科(西洋画)はなく、ベトナムの現代絵画は「漆画」。「漆画こそアジアの美術であり、私たちベトナムの文化です」。上記の本に書かれてあるこの一文に、衝撃を受ける方も多いのではないでしょうか。ベトナムは1884年からフランスの保護領となり、1940年ごろまで続きました。そんなベトナムの漆画にはフランス風のセンスを感じさせます。近代感覚で表現する独自の技法が生まれ、今までにない新しいものが見られます。
漆は漆器に限らず、また漆絵だけでなく、彫刻、造形などにも支障なく用いることができます。日本では漆のもっている性能を自由な視点で見直し、作り手の個性と思考に基づいて作品づくりに取り組んでいます。かつて松岡が「私のやったことだから、今後私以上のことを独自にできる人が必ず出現すると信じる」といったように、絵画に限らずもっと自由な表現で漆アートのジャンルが広がっています。
<参考文献>
・『漆─うるわしのアジア』大西長利著 NECクリエイティブ